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膝の要・前十字靭帯(ACL)の損傷について解説します

いつもブログをご覧下さりありがとうございます。

BIOHACK改め、Dr.KOMEDA Relaxation & Fitnessのアスレティックトレーナー、坂内です。

 

2022年ワールドカップが始まりました!

強豪ドイツ・スペインに勝利した日本も

決勝トーナメントへと進出し、大盛り上がりですね。

 

試合も楽しく観させてもらっていますが、

どうしても試合中の怪我の方に目が行ってしまうのは

アスレティックトレーナーの性分かも知れません。

 

今回も早くも様々な怪我が起こっています。

フランスのディフェンダー、リュカ・エルナンデス選手は

オーストラリアとの一戦で右ヒザの前十字靭帯(ACL)を損傷しました。

 

 

この負傷でエルナンデス選手は残りの試合は欠場、

復帰にもしばらく時間がかかると予想されます。

 

ACL損傷はサッカーだけではなく、バスケットボール、

ハンドボール、ラグビーなど様々なスポーツで発生する可能性があります。

 

アメリカの大学スポーツでACL損傷が多く発生したのは

・アメリカンフットボール(男子)

・バスケットボール(女子)

 

日本の中高生を対象にした調査では、

・サッカー(男子)

・バスケットボール(女子)

の受傷件数が最も多いという報告がありました。

※日本ならではの競技だからか、日本では

柔道でのACL損傷件数も多かったそうです。

 

種目は違えど、

サッカーやバスケットボール、フットボール

などに共通しているのは急激な方向転換や減速、

ジャンプ動作が要求されるという事でしょう。

 

 

ACL損傷については多くの研究がされていて、

そのメカニズムも明らかになってきています。

 

このブログでは

・ACLの構造

・ACL損傷のメカニズム

・ACL損傷のリスクの高い動作

 

を解説していきたいと思います。

 

前十字靭帯(ACL)の構造

膝関節にはいくつか靭帯が存在しますが、

ACLはその中でも大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)

を結ぶとても強力で重要な靭帯です。

 

ACLは大腿骨の後方と脛骨の前方を結んでいて、

脛骨が大腿骨に対して前方にずれたり、

ねじれ(=回旋)に対して動き過ぎないように制限をかけています。

なので、ACLは前後、回旋の力に対して

膝を安定させる役割を果たしています。

 

つまり、もしACLを損傷してしまったら

膝は前後、回旋の動きに緩くなってしまう、

不安定になってしまうということになります。

 

 

そのため、ACLを損傷したまま、

怪我をする前のレベルを維持してプレーし続けるのは

ほぼ不可能と考えて良いと思います。

 

また、以前は激しいスポーツを行わなければ

ACL損傷はそのまま放置していても大丈夫とされていました。

しかし、最近では損傷をそのままにしておくと

膝関節のクッションのような役割を果たしている

半月板や軟骨の損傷といった弊害を起こすリスクが高くなり、

その結果、将来的には変形性膝関節症へと進行し、

日常生活にも支障をきたすリスクが高くなると言われています。

 

ですので、ACLを損傷した場合は

靭帯の再建手術を行うことが年齢や

スポーツをする・しないに関わらず、基本的な治療法として

勧められることがほとんどです。

 

手術後の復帰に関しては術後6ヶ月復帰から12ヶ月復帰など

様々な方針が打ち出されていますが、

研究では、9ヶ月もかからずに競技復帰した場合、

再受傷の確率は約7倍にも上がるという報告もあり、

あまりに早期の復帰は推奨されていません。

 

ですので、一旦ACLを損傷してしまうと、

完全復帰するまでにはかなりの時間を要すると

いうことになります。

 

ACL損傷のメカニズム

ACL損傷の多くは非接触で発生すると言われています。

 

非接触での受傷時のパターンとして多いことの一つが、

接地の際に膝があまり曲がっていない、つまり

膝を伸展した状態で接地してしまうことがあります。

 

研究では、膝を伸展したまま外や内にねじる力が加わった時の

ACLへの負荷は、

膝を20°以上に屈曲してねじる力が加わった時の

2倍以上になるという結果もあり、膝を伸ばしたままの

接地・着地はACLへの負担がかなり大きくなるといえます。

 

 

また、ACLを損傷したアスリートの動きを横から見てみると、

その多くは身体の重心より足関節が前方に位置して

接地していることが分かりました。

これはボールを前にドリブルで蹴りながら走る

サッカー選手によく見られるフォームです。

 

Sheehan et al.(2012)より引用

 

この体勢がどうして危険なのでしょうか?

スネの骨…脛骨の大腿骨と接する部位(プラトー)の外側は

後ろに傾斜しています。

足が身体の重心よりも前に出ている状態で

足を接地すると、脛骨の外側が大きく前方にずれ、

その結果、内旋(内側に捻られる)が起こり、

ACL損傷が生じるという仮説があります。

 

 

冒頭のエルナンデス選手も、

身体重心のかなり前で足をついています。

そして更に着地したあと、

体幹より外側に足がついている状態で

切り返し動作を試みています。

 

こういった動作の時、膝は外反(膝が内側に入る)

の負荷を受けます。

 

この体勢の(膝への外反負荷がかかった)とき、

・膝の外側に力が集中する

そして、先ほどの理論と同じように

・脛骨の後ろへの傾斜によって脛骨が前方にずれる

・内旋の力が生まれ、ACLの損傷へとつながる

 

といわれています。

エルナンデス選手も、ACLが切れたであろう(推測ですが)

瞬間は、膝から下の脛骨がかなり内旋されているのが分かります。

 

 

ACL損傷のリスクのある動作

ではACLを損傷するリスクが高まる動作をまとめていきましょう。

 

・膝が伸展した状態での接地

・重心より足関節が前に出ている=体幹の後傾

・身体より外側での足の接地

 

上記の動作のうちのどれかが起こる、

もしくは上記の動作が重なると

ACLへの負荷は高まり、損傷へと繋がる

可能性が非常に高くなるといえるでしょう。

 

まとめ

ACL損傷については長年多くの研究がされています。

受傷の要因は様々あり、動作だけでなく

骨の配置(アライメント)や環境、

性別(女性の方がリスクが高い)、

筋力バランスや疲労度などが関わってくるため、

これをしたら絶対にACL損傷は防ぐことができます。

という確立されたものがないのが現状です。

 

しかし今回紹介した様に、

研究によって受傷のリスクを高めるということが

明確に示されている危険な動作を、修正ないし

上手にコントロールできるようになれば、

ACL損傷のリスクをある程度低くすることへと

繋がるでしょう。

 

受傷するとその後の競技人生や日常生活に

大きな影を落とすことになるACL損傷。

その原因の一つとなる動作パターンを理解し、

改善することでリスクの減少へと繋げていきましょう!

 

 

参照:

 

Agel J., and Klossner D. (2014). Epidemiologic Review of Collegiate ACL Injury Rates Across 14 Sports: National Collegiate Athletic Association Injury Surveillance System Data 2004-05 Through 2011-12. British Journal of Sports Medicine, 48.

 

Beischer S. et al. (2020). Young Athletes Who Return to Sport Before 9 Months After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Have a Rate of New Injury 7 Times That of Those Who Delay Return. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. (50)2.

 

Meyer E.G., and Haut R.C. (2008). Anterior Cruciate Ligament Injury Induced by Internal Tibial Torsion or Tibiofemoral Compression. Journal of Biomechanics. 41(16).

 

Sheehan F.T. et al. (2012). Dynamic Sagittal Plane Trunk Control During Anterior Cruciate Ligament Injury. American Journal of Sports Medicine. 40(5).

 

Shimokochi Y., and Schultz S. J. (2008). Mechanisms of Noncontact Anterior Cruciate Ligament Injury. Journal of Athletic Training. 43(4).

 

高橋佐江子、奥脇透(2015). 我が国の中高生における膝前十字靭帯損傷の実態. 日本臨床スポーツ医学会誌. (23)3.