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アイシングはもう古い?怪我をした時の対処法について解説します!

ブログをご覧下さり、ありがとうございます。

パーソナルジムDr. KOMEDA Relaxation & Fitnessのアスレティックトレーナー、坂内です。

 

秋の気配が近づき、だんだんと涼しくなってきました。

スポーツの秋ともいいますので、新たに運動を始めたり、

再開する人も多いのではないでしょうか。

 

かくいう私も、夏の間はあまりに暑くてお休みしていた

ランニングをぼちぼち復活させています。

 

慣れない動きを急にしたりすると起こりがちなのが

捻挫や肉離れ。

初心者でも経験者でも、運動に怪我のリスクはつきものです。

怪我をしないことがもちろん一番ではありますが、

それでも怪我をしてしまった時に、正しく対処をすることで

それからの予後は大きく変わってきます。

 

このブログでは怪我をした際の応急処置として定着している

・RICE処置とその変遷

・怪我をした時に身体に何が起こっているか

・アイシングの正しい活用法

・最新の対処法

 

をお伝えしたいと思います。

 

RICE処置法の変遷

 

ご自分やご家族、友達が打ち身や捻挫、肉離れなどの怪我をした時、

皆さんはまずどんな対応をするでしょうか?

 

一般的な応急処置方としてよく行われるのは

まず冷やしてとにかく安静にする、いわゆる

「RICE」

だと思います。体育の授業などで習った方も多いのではないでしょうか。

 

RICEは

Rest: 安静

Icing: アイシング(氷などによる冷却)

Compression: 圧迫

Elevation: 挙上(患部をなるべく心臓より高くする)

の頭文字をとったものです。

 

その主な目的は、炎症反応の抑制です。

 

Athletic Medicineより引用

このRICEは1970年代にGabe Mirkinという医師が提唱し、

急性期の怪我の応急処置のゴールドスタンダードとして

アメリカから世界へ定着していきました。

 

私もアメリカへ留学し、学生トレーナーとして

まず最初に覚えた仕事の一つは、RICE用の

氷パックを作ることで、怪我をしたらまずRICE!!

というのが当時のスポーツ現場では浸透していました。

 

しかしその後、Joshua Stoneというアスレティックトレーナーが

RICE: The end of an Ice Age

という記事を出し、RICE処置におけるアイシングはもう終わりだ、

と主張して大きな議論を巻き起こしました。

 

そしてRICE処置を考案した先のMirkin氏自身も

アイシングと完全な安静は治癒を助けるどころか遅らせていると思われる、

と述べています。

 

その後、RICEにProtection(患部の保護)を足したPRICE

さらにRest(安静)を抜いて適切な負荷=Optimal Loadingを加えたPOLICE

と変遷し、2019年頃からはとうとう

PEACE & LOVE にまで行きつきました。

 

Protection (患部の保護)

Elevation (患部の挙上)

Avoid anti-inflammatory drug (抗炎症薬を避ける)

Compression (患部の圧迫)

Education (患者教育)

&

Load (最適な負荷)

Optimism (楽観的でいること)

Vascularization (循環系の改善=血流を増やす)

Exercise (運動)

 

と、アイシングはここでは完全に除外されています。

 

アイシングで何が起こっているのか

では、そもそも怪我をした時、

身体の中で何が起こっていて、アイシングは

それに対してどんな作用をしているのでしょうか?

 

怪我によって筋肉などの組織が傷ついたとき、

損傷した部位には炎症細胞が集まり、損傷した組織やその残りカスを

綺麗に取り除いていきます。

そしてその跡地に新しい組織が作られていくというのが、

負傷した組織の治癒の過程です。

 

ですので、炎症というのは損傷した組織を治そうとする

過程で、起こって然るべき反応というわけです。

 

そしてRICEの主な目的は炎症を抑えることでした。

 

 

あれっ!?と思いますよね。

 

実際に動物実験では、炎症反応が起こらないよう

遺伝子操作されたマウスは、損傷した筋組織が

修復されなかったそうです。反対に、通常のマウスは

筋の損傷に対して炎症反応がしっかりと起こり、治癒に至っています。

 

また別の動物実験では、筋肉を損傷させたマウスを

アイシングする群としない群に分けて

組織の再生の過程を観察したところ、

アイシングをしたマウスの新しい筋細胞の形成が、

アイシングをしていないマウスの群に比べて遅い結果となったそうです。

 

組織が治癒するためには炎症が関与している。

であるのなら、その炎症を抑える目的で行っているアイシングは

良くないのではないか?

 

という考えが広まってきています。

 

アイシングの正しい活用法

それでは怪我をした時のアイシングは悪なのかというと、

一概にそう言い切ることはできません。

 

アイシングによる冷却は痛覚を鈍くさせ、

神経の興奮を抑える効果もあるので、痛みを抑える手段として

やはり非常に有効です。

 

また、炎症は組織の修復に必要とはいえ、

過剰に腫れることはさけたいもの。

あまりにも腫れてパンパンになると組織内の圧も高まってしまいますし、

身体の感覚も狂ってしまう可能性があります。

 

ですので、炎症や腫れは「必要悪」。

過度に腫れるのを防ぐため、そして痛みのコントロールをするためにも

怪我をした直後のアイシングは有効と考えられます。

 

ただし、冷やし過ぎには注意です。

過度な冷却で代謝が落ちてしまうと、

循環も滞ってしまって組織の修復に必要な白血球などが

損傷部位に届かなくなってしまいます。

アイシングは怪我の直後、10分-15分、長くて20分程度にしておきましょう。

 

最新の対処方法

それでは負傷時の最新の対処法…PEACE & LOVEの中で、

 

RICE、そしてPRICEから引き継がれている

Protection (患部の保護)

Compression (患部の圧迫)

Elevation (患部の挙上)

は文字の通りですので割愛し、

新たに追加された

Avoid anti-inflammatory drug (抗炎症薬を避ける)

Education (教育)

Load (最適な負荷)

Optimism (楽観)

Vascularization (循環の改善)

Exercise (運動)

について説明します。

 

 

・Avoid anti-inflammatory drug (抗炎症薬を避ける)

イブプロフェンなどの抗炎症痛み止め薬は、

炎症を誘発させるプロスタグランジンの生成を抑制する作用があります。

またプロスタグランジンは、ブラジキニンという発痛物質の働きを

促進してしまう作用も持ち合わせています。

これらを阻害してあげるのが、抗炎症痛み止めの薬です。

 

繰り返しになりますが炎症は治癒のプロセスにおいてある程度必要なため、

それを抑制する抗炎症痛み止めの薬は、怪我の直後は

避けた方がいいということです。

あまりに痛くてどうにかしたい!という時は

直接中枢神経に作用し、抗炎症の作用はほとんどないと言われている

アセトアミノフェン(例:カロナールなど)を服用するのがいいかもしれません。

 

・Education (教育)

この教育に関しては、PEACE&LOVEの概念のように、

正しい対処法を指導し、不必要に安静にしたり、

身体に起こっていることを正しく患者さんに理解してもらう、

どちらかというと怪我を診る側の心がけです。

 

・Load (最適な負荷)

早期に”最適な負荷”をかけてあげることで

組織の治癒や強化が促進されることが分かってきています。

靭帯や腱などの組織は、与えられた刺激に反応して形成されていきます。

できるだけ早く、正しい動作と適切な負荷をかけてあげることで

新しい組織の構築を促していきます。

 

 

・Optimism (楽観的でいる)

「病は気から」という言葉もあるくらい、

心の状態というのは怪我の予後にも影響します。

「腫れているのは身体が今一生懸命治そうと頑張っているからだ」

というように前向きな考え方でいることが大切です。

 

 

・Vascularization (循環系の改善)

痛みのない範囲で有酸素運動を行い、

損傷部位への血流を増やしていきます。

組織修復に必要な細胞や栄養は血流によって運ばれるため、

血流を改善することで、治癒の促進が期待できるでしょう。

 

・Exercise (運動)

怪我をした後の適切な運動療法は

可動域や筋力、固有受容感覚(自分の身体の位置や力加減を感知する感覚)

などの機能の改善に有効であるとされています。

完全に安静にしているよりも、

運動で積極的なアプローチをすることが

回復を早め、更に怪我の再発防止に効果的であるといわれています。

 

まとめ

 

・怪我をしたらまずアイシング(冷やす)が一般的となっている

 

・だが、アイシングをし過ぎない方が

組織の早期回復が見込める可能性がある

 

・痛みのコントロールをする、という点ではアイシングは有効

 

・炎症は組織の治癒に必要なため、それを阻害する抗炎症薬も

怪我の初期は避けた方が無難

 

・無理のない範囲で早期から運動をした方が組織の回復や

機能改善に有効な可能性がある。

 

最適な負荷での運動が有効とはいえ、いつ頃から・どのような運動を・

どのくらい行うのが「最適」であるのかは

一般の人はなかなか分からないでしょう。

怪我の重症度によっては、やはり最初は安静にすることが

必要な時もあるかもしれません。

 

まずは医療機関で正しい診断をしてもらい、

その結果を受け、専門家の指導のもと、状況に応じて

適切な運動療法を行うことが

早期回復への近道となると思います。

 

パーソナルジムDr. KOMEDA Relaxation & Fitnessは整形外科クリニック直営の施設なため、

医師による診断、そしてそれを反映した運動指導を

行うことが可能となっています。

 

怪我からの復帰、何をどうしたら良いか分からない…

そんな方は、是非一度、ご相談ください。

 

参考:

 

RICE: The end of an Ice Age. Athletic Medicine.

https://athleticmedicine.wordpress.com/2014/04/04/rice%EF%BC%8Dthe

 

Why Ice Delays Recovery. DrMirkin.com.

https://www.drmirkin.com/fitness/why-ice-delays-recovery.html

 

Kawashima et al. (2021). Icing After Eccentric Contraction-Induced Muscle Damage Perturbs the Disappearance of Necrotic Muscle Fibers and Phenotypic Dynamics of Macrophages in Mice. Journal of Applied Physiology.

https://doi.org/10.1152/japplphysiol.01069.2020

 

Blaise Dubois (2020). Soft Tissue Injuries Simply Need PEACE and LOVE. British Journal of Sports Medicine.

http://dx.doi.org/10.1136/bjsports-2019-101253

 

Lu etal. (2010). Macrophages Recruited via CCR2 Produce Insulin-like Growth Factor -1 to Repair Acute Skeletal Muscle Injury. Federation of American Societies for Experimental Biology. https://doi.org/10.1096/fj.10-171579