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悪者なんかじゃない!実は超有能な乳酸について解説します

ブログをご覧下さりありがとうございます。

パーソナルジムDr. KOMEDA Relaxation & Fitnessのトレーナー、坂内です。

 

いよいよ涼しくなり、

外を走るのにも気持ちの良い日が増えました。

 

先日公園でランニングをしていると、

グループトレーニングをしていた

学生らしき人たちの一人が

 

「乳酸たまってきた!きつい!」

 

というようなことを言っていました。

 

乳酸と言えば、この彼の様に

「運動して乳酸がたまる」

「乳酸がたまると疲れる」

など、老廃物や疲労物質としてマイナスなイメージがあります。

 

しかし、実は乳酸は疲労物質どころか、

逆にエネルギーとして利用されたり、

更には記憶の形成を高めたり、

学習能力の向上を担う働きがあることが分かってきていて、

人間にとっていらないものどころか大事な物質となっています。

 

このブログでは

・「乳酸=疲労物質」の歴史

・乳酸が作られる仕組み

・乳酸の役割

・乳酸の脳への効果

 

を解説していきます!

 

「乳酸=疲労物質」の歴史

乳酸は運動をする時に生まれ、疲労のもととなる「老廃物」

という認識が強いと思います。

1976年のカエルの筋肉を使った研究では、

筋の収縮力の強さと乳酸の量の変化を調べました。

 

Fitts & Holloszy (1976).

 

結果は、時間が経つにつれて筋の収縮力は低下し(緑)、

それに反比例して乳酸の量は増加(オレンジ)。

このことから筋疲労は=乳酸によるもの、

という考えが広まったと推測されます。

 

しかし、上のグラフで注目したいのは、よく見ると

乳酸の増加以外にもホスホクレアチンという

エネルギー貯蔵物質や、

ATPという高エネルギー性の化合物も

減少しているということです。

 

それなのに、どういうわけか

疲労の原因=乳酸

という認識がいつの間にか広まっていっていきました。

 

乳酸が作られる仕組み

 

実際に乳酸は何者なのかというと、

糖をエネルギーとして利用する途中で

出来るものと考えて良いでしょう。

 

運動をする時に必要となるエネルギー源の主たるものは

グリコーゲンとなります。

短距離ダッシュなどの強度の高い運動、

いわゆる無酸素運動では糖の利用が高まります。

そして糖をエネルギーとして変換する過程で産生されるのが

乳酸 なのです。

したがって、糖を多く必要とするような

強度の高い運動では乳酸が多く産まれ、

乳酸が産生されるということは、糖をエネルギーとして

消費している、ということなのです。

 

 

そして強度のあまり高くない運動や

持久力を必要とするような運動では、

まず主に脂肪、糖、そして乳酸を

エネルギー源とします。

 

速筋繊維から生まれた乳酸は

MCTという輸送体によって遅筋繊維や

心臓の筋肉(=心筋)に送られ、

エネルギー源として消費されます。

 

この乳酸を運ぶMCT

骨格筋心筋、そして

豊富に存在することが分かっています。

ですので、乳酸は老廃物や疲労物質どころか、

身体にとって非常に重要なエネルギー源

ということになります。

 

乳酸の役割

 

上で述べたように、乳酸は

疲労物質などではなく、

筋肉の活動エネルギー源として

非常に重要な物質であることが分かりました。

 

そしてこの乳酸を輸送するMCTは、

脳にも豊富に存在しています。

 

これまでグルコース=糖が

唯一のエネルギー源だと考えられていた脳ですが、

乳酸もエネルギー源として利用していることが

分かってきました。

 

 

脳は、グルコースをアストロサイトという細胞に貯蔵し、

必要に応じて乳酸へと分解して

脳神経細胞のエネルギーとして利用します。

 

研究では、運動時、脳内では

グルコースの利用率が減少し、

代わりのエネルギー源として

乳酸の利用率が増加したという報告もあります。

 

そしてこの乳酸は、脳のエネルギー源としてだけでなく、

神経の成長にも影響を与え、

長期記憶の形成などに重要な役割を果たしている、

ということも明らかになってきています!

 

 

乳酸の脳への効果

 

脳の海馬という部分は記憶の形成に不可欠な

脳の部位です。

 

 

Suzukiら(2011)の研究では、

グリコーゲンが乳酸に分解されることを

阻害する酵素を海馬に直接投与すると、

長期的な記憶の形成が阻害され、更に、

この阻害が乳酸を投与することで回復したことを

発見しました。

 

また、乳酸を運ぶMCTという輸送体の発現を抑えた場合も

長期的な記憶形成が阻害され、またこれも、

乳酸の投与によって回復したことが観察されました。

 

このことから、アストロサイトからの脳神経細胞への

乳酸の供給は、長期的な記憶形成に必須,そして

乳酸を運ぶMCTもカギとなる存在であると

考えられるようになりました。

 

別の研究では、

中強度の持久運動(トレッドミルで2時間ランニング)を

ラットに行わせて観察したところ、

記憶を司る海馬、自律神経の調整に重要な視床下部

そして大脳乳酸濃度とMCTが増加したそうです。

 

このことから、運動によって脳のMCTが増え、

それによって運動時、脳はより乳酸を

エネルギーとして利用出来るようになると考えられます。

 

先の研究結果と併せると、MCTを増やし、より乳酸の供給を高めて

脳のエネルギー源とすることを促進する運動は、

長期記憶の形成に非常に有効であるということが言えると思います。

 

運動は筋肉と脳を同時に鍛える

 

運動と認知機能の関連性は近年、多くの研究がされています。

継続的な運動・トレーニングは筋肉のグリコーゲン貯蔵量を

増加させると同時に、脳内(皮質・海馬)のグリコーゲンの量が

増加することも報告されていて、

その結果利用できる乳酸やそれを輸送するMCTも増加するので

認知機能も高まると考えられます。

 

 

まとめ

・乳酸は糖をエネルギーとして使用する際に

産まれ、骨格筋や心筋、脳のエネルギー源として

活用される

 

・よって乳酸=疲労物質、老廃物ではない

 

・運動によって乳酸と乳酸を輸送するMCTが増加し、

長期記憶の形成に重要な役割を果たしている

 

・運動することで筋だけでなく脳のグリコーゲン貯蔵量も増え、

それに伴い乳酸の代謝・利用率も増加し、身体だけでなく

脳機能を高めることが出来ると考えられる

 

研究では一度の運動でも脳内の乳酸濃度や

MCTが増加したという結果は出ていますが、

運動能力と認知機能の向上を目指すのであれば、

運動は継続して行うことが理想です。

 

自分ひとりでは何をしたら良いのか分からない、

なかなか運動を続けられない、

怪我をしたことがあるから動くのが不安…

 

というような方は、

パーソナルトレーニングなどを活用しながら

自分に合った運動で身体と脳、

どちらの機能も高めていきましょう!

 

 

参考:

 

Overgaard et al. (2012). Hypoxia and Exercise Provoke Both Lactate Release and Lactate Oxidation By the Human Brain. FASB. 26(7).

 

Fitts R.H. and Holloszy J.O. (1976). Lactate and Contractile Force in Frog Muscle During Development of Fatigue and Recovery. The American Journal of Physiology 231(2).

 

Matsui T. et al. (2011). Brain Glycogen Supercompensation Following Exhaustive Exercise. The Journal of Physiology.

 

Matsui T. et al. (2017). Astrocytic Glycogen-Derived Lactate Fuels the Brain During Exhaustive Exercise to Maintain Endurance Capacity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.

 

Shima T. et al. (2017). Moderate Exercise Ameliorates Dysregulated Hippocampal Glycometabolism and Memory Function in a Rat Model of Type 2 Diabetes. Diabetologia. 60(3).

 

Soya M. and Soya H. (2019). 認知機能における脳グリコーゲンの生理的役割とそれに及ぼす運動効果. 化学と生物. 57(11). 672-678.

 

Suzuki et al. (2011). Astrocyte-Neuron Lactate Transport Is Required for Long-Term Memory Formation. Cell.

 

Takimoto M. and Hamada T. (2014). Acute Exercise Increases Brain Region-Specific Expression of MCT1, MCT2, MCT4, GLUT1, and COX IV Proteins. Journal of Applied Physiology. 116.