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若者から高齢者までなりやすい「大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)」について解説します

しゃがんだ時などに鼠径部が痛い、

長時間歩いたり、階段の上り下りで股関節が痛む、

股関節に引っかかった感じ・詰まり感がある…

 

股関節の痛みの由来は様々ですが、

上記のような症状がある方はもしかしたら

「大腿骨寛骨臼(だいたいこつかんこつきゅう)インピンジメント(=Femoroacetabular Impingement: FAI)」

かも知れません。

 

FAIは若い人やアスリートから高齢者の方まで

様々な方に起こりやすい現象だと言われています。

 

このブログでは主に

・FAIについて

・FAIへの対処法

について解説していきます。

 

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは

大腿骨寛骨臼インピンジメント(以下、FAI)は2003年にスイスのGanzらの研究グループによって提唱された、股関節痛の現象の一つです。

 

FAIは股関節の受け皿のような役割を果たしている寛骨臼に、

ももの骨…大腿骨の頭の部分(大腿骨頭)が当たってしまい、前方及び上部の寛骨臼の軟骨などにダメージが加わる現象です。

 

 

股関節を深く曲げる動作を繰り返すことで大腿骨頭と寛骨臼の衝突が生じ(インピンジメント)、寛骨臼を環状に取り巻き、大腿骨頭を包み込むようにしてショック吸収の役割も果たす「関節唇(かんせつしん)」という軟骨にダメージが生じます。

 

そのため、FAIはサッカーやアイスホッケー、野球のキャッチャーなど、股関節の深い屈曲を繰り返すスポーツのアスリートにも起こりやすいと言われています。

 

 

FAIの定義として

①大腿骨頭、および/または寛骨臼の骨の形態異常

②大腿骨頭と寛骨臼の接触異常

③特に②が起こるような激しい動き

④関節唇が傷つくような動作の繰り返し

⑤周囲の軟組織の損傷

といった要素が考えられます。

 

FAIの診断

FAIは通常、臨床症状と臨床サイン、レントゲンなどの画像診断を併せて行います。

 

臨床症状

FAIの代表的な症状としては股関節や鼠径部の痛み、クリック音、ひっかかり感や詰まり感などがありますが、過去の症例では、外側のお尻や前もも、腰に痛みが現れる場合もあります。

 

臨床サイン

FAIの一般的な兆候は、股関節の関節可動域の低下や股関節周囲の筋力低下などがあります。

また、下の図の様な前方インピンジメントテストという評価も医療現場では用いてその結果を判断材料の一つとすることもあります。

Grantら(2012)より引用

 

画像診断:FAIのタイプ

①CAMタイプ

CAMタイプは大腿骨側の骨の形態異常に起因するもので、大腿骨の頸部の「くびれ」が少ないため、股関節を屈曲した時に前方で寛骨臼にぶつかってしまいます。

 

②Pincerタイプ

Pincerタイプでは寛骨臼側に形態異常が見られ、寛骨臼が大腿骨頭にかぶり過ぎるために衝突が起こります。

 

③CAMとPincerのミックスタイプ

大腿骨、寛骨臼両方に骨の形態異常が見られるタイプです。

 

 

画像からCAMタイプと診断された人の内15-29%は無症状だったという研究もあるため、骨の形態異常がある=FAIというわけではなく、これら臨床症状・臨床サイン・画像診断による骨の形態異常を併せ、総合的にFAIは診断されます。

 

FAIへの対処法

 

骨の形態異常などは薬や運動で変化を起こすことは出来ません。

しかし、たとえば肩の関節唇の怪我は保存療法で治るケースも多くあるわけですから、FAIも基本は薬や運動などを組み合わせて痛みを軽減し、骨と骨がぶつかる要因を減らしていく保存療法をまずは考えていきます。

 

過去の研究では、FAIと診断された患者の多くは股関節周囲だけではなく、体幹の筋力や腰椎と骨盤のコントロール力が低下しているという報告があるため、運動による介入では、これらの改善に努めていきます。

 

以下、FAIに対するエクササイズをいくつか紹介していきます。

 

バードドッグ:

①四つ這いになります

②腰が反らないように気を付けながら、対角の腕と足を床から離して伸ばし→①の体勢に戻ります

 

キャット&ドッグ:

①四つ這いになり、手で地面を押しながら背中を天井に近づけるように背骨を丸めます

②肘を伸ばしたまま肩甲骨を内側に寄せるようにして背中を反らしていきます

 

ブリッジ:

①仰向けに寝て、両足で地面を押してお尻を床から浮かせます。

②お尻の高さを維持したまま、片脚を床から離し→おろします(交互に行う)

 

クラムシェル:

Terrel ら(2020)より引用

 

①横向きに寝て、頭-お尻-かかとが大体一直線上にくるようにします

②足同士はくっつけたまま、上の足の膝を開きます(お尻の横の収縮を感じます)

③開いた状態で3秒ほどキープして、ゆっくりと元の位置に戻ります

 

まとめ

股関節障害の要因は様々あり、FAIはあくまでもそのうちの一つに過ぎません。

症状や画像診断によって総合的に判断され、対処すべきものですので、

自分がFAIかな?と思ったら、まずは医療機関で診察を受けることをおすすめします。

ぜひ、参考にしてください!

 

参照:

Freke M. et al. (2019). Physical Impairments in Symptomatic Femoroacetabular Impingement: A Systematic Review of the Evidence. British Journal of Sports Medicine. 50.

 

Grant A. D. et al. (2012). Femoro-Acetabular Impingement: The Diagnosis – A Review. Journal of Children’s Orthopaedics. 6(1).

 

Griffin D. R. et al. (2016). The Warwick Agreement on Femoroacetabular Impingement Syndrome (FAI Syndrome): An International Consensus Statement. British Journal of SPorts Medicine. 50.

 

Terrel S. et al. (2020). Therapeutic Exercise Approaches to Nonoperative and Postoperative Management of Femoroacetabular Impingement Syndrome. Journal of Athletic Training. 56(1).

 

日本股関節学会. 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の診断につて(日本股関節学会指針).